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2008.10.09:フリータウン

2008.10.09:フリータウン

10月9日(木)。

シャノーさんは急用ができたということで、朝からバタバタしている。

シャノーさんの仕事は、公的な手続きや自分のNGOの経理事務などのオフィスワークと、各キャンパスとその周りのコミュニティへの訪問による人間関係構築、大きく分けてこの2つである。

実際に子供と触れ合ってばかりで、自分の団体の運営の収支がどうなっているのか把握していなければ活動を続けていくことはできないし、お金の計算ばかりして、人とのコミュニケーションを怠れば誰も自分の考えに耳を傾けてくれない。だからこそこの2つは彼にとって欠くことのできない仕事だと説明してくれた。

普段からオフィスやコミュニティを忙しく動き回っている上に、今月は僕の世話までしなければいけない。かなり申し訳ない。

僕がここへ来てからあまり身の危険を感じずにいられるのも、シャノーさんが僕の安全確保に心を砕いてくれているからだ。僕はこの恩を必ず返さなければならないだろう。

ということで、ちょこちょこと今後に向けて準備を始めている。日本に帰ったあと、少しでも彼の活動の手助けができれば、僕のここでの経験は意味があったということになる。

今日はシャノーさんは僕の相手をしている場合ではなさそうだし、アルフレッドに遊んでもらおうということで、彼を探しに外に出てみた。

アルフレッドはほぼ毎朝、ロイスの言いつけで家の前を掃き掃除している。暇なので手伝おうとすると、「ここは犬が来て危ないから来ちゃダメ」と言われた。

なので、犬の入って来れない場所でアルフレッドと話しながら掃除の様子を眺めていた。彼は本当に真面目で、こういうロイスから任された仕事を一生懸命こなす。

今日こそはサッカーをしに行こうと約束して、一旦部屋に戻る。

今日まで書き溜めたメモやシャノーさんからもらった資料をまとめる。まだたったの2週間弱であるが、思いの外結構な量になった。これを元に、今後どうやってシャノーさんを手伝うか考えよう。

ロイスが朝食を用意してくれた。今日はプランティーンのフライだ。プランティーンというのは、バナナによく似ているけどバナナじゃない果物のことで、バナナよりも酸味が強く、アフリカでは油で揚げて食べるのが一般的なようだ。

正直、僕ははじめこのプランティーンはあまり美味しいと思わなかったが、人間やはり慣れるもので、今ではどちらかというと好きな食べ物になっている。

ついでなので、ここでフリータウンでの生活について書いてみようと思う。

まず、マラリア対策に蚊取り線香、虫除け、殺虫剤などの蚊対策用品は、外国からやってきた人間には必要であることは言うまでもないだろう。

加えて、僕がここに来て「持ってきて本当によかった」と思ったものは、懐中電灯だ。僕は頭に固定できるヘッドライトを持ってきた。こっちの方が両手が空くのでおすすめである。

フリータウンはシエラレオネの中で唯一インフラの整備された街であるということになっているが、夜には水道も電気もほぼ毎日止まる。日が落ちてからの長い時間、暗い中で過ごさないといけない。

僕はその時間帯にPCで作業したり、クリオと英語の勉強をしたりすることが多いのだが、懐中電灯を持って来ていなかったら、暗闇の中時間を持て余すところだっただろう。

あと団扇。冷房も扇風機も満足に使えない環境なので、これはシエラレオネに来るなら必ず持ってくるべきだろう。

いちおう部屋には扇風機があるものの、電気が止まっていることが多いのであまり使えない。

しかも夜は防犯上の理由で窓を閉めなくてはならないので、高温多湿の密室で一晩中過ごさなければならない。

ちなみに余談だが、カバンや貴重品は窓から見える場所には絶対置くなと強く言われている。これも防犯上の理由だ。

加えて、マラリア対策のために蚊に刺されないよう露出の少ない服装で寝る。・・・ように注意されているが、これは正直無理だ。

最近は蚊帳を張った中で、上半身裸で寝ている。それでもあり得ないほど暑い。身体中に虫除けを塗っているからかも知れないが、幸いなことに今のところはマラリアにかかっていない。

次に、僕にとってこれは少し意外だったのだが、携帯電話が異常なほど普及している。

水道も電気も道路事情も悪いのに、携帯電話だけはなぜか割りと安価で手に入る。

また、シエラレオネの人は通話相手の携帯電話会社などによって自分の携帯のSIMカードを頻繁に入れ替えては、少しでも通話料の安い方法で電話を掛ける。

この携帯電話の普及には理由があって、昔は街中に電話線が張り巡らされ、家庭にも電話が普及していたそうだが、それが紛争時に街ごと破壊されてしまった。

そうなっては街中に再び電話線を引くよりも、電波塔を建てて携帯電話を普及させた方が安く済む、というわけだ。

話を戻す。

ロイスに「彼氏はいないの?」などとセクハラおやじのような質問をして嫌がられていると、アルフレッドがやって来て「食べ終わったらサッカーしに行こう」と誘われた。

急いで食事を済ませ、アルフレッド、モハメッド、その2人の間の兄弟のアンドリューと4人でビーチに向う。

「ビーチまでどれくらい?」と聞くと、「そんなに距離はないよ」との答え。彼らの「そんなに距離ない」は僕にとっての「割りと遠い」だということはもう知っている。

ネットカフェや商店が並ぶ、大きめの交差点に差し掛かると「ヘイ、ジャパニーズ!」と遠くから声を掛けられる。

大抵は「チンチャ」とか「チャイナ」とか声を掛けられるので、珍しいなと思いながら振り返ると、見覚えのない黒人の青年が手を振っている。

怪しみつつも手を振り返すと、彼は嬉しそうに寄ってきて「日本人なの?俺はミシマ(たぶん静岡の三島)にいたことがあるんだ!なんで君はこんなとこにいるの?まぁいいや!俺も実はガーナ人だし!ここ俺の店だからまた通りかかったら寄っていってよ!」とものすごいハイテンションで話しかけられた。

彼が自分の店だと言って指差した方をみると、どうやらタトゥーのアトリエらしかった。彼は彫師のようだ。

特に用事はないだろうが、せっかくの縁なので「わかった、また通りかかったら寄るよ」と返事をして待っていてくれてた3人に合流した。

モハメッドによると、彫師の青年はクリオが話せないらしい。モハメッドがクリオで話し掛けても通じなかったと言っていた。どうやら、クリオはシエラレオネの中だけの言葉のようだ。

混雑する交差点を抜けると、少し周りが静かになる。「ここはゴルフ場!タケシはゴルフやる?」「やったことないよ」「これ学校!」「アルフレッドの?」「違う」みたいに会話しながら、アルフレッドがこの辺りを案内してくれた。

向こうの方に水平線が見えてきた頃、警察の駐在所の前を通りかかった。すると、僕を見つけて3人いた警官のうちの一人が声を掛けてくる。

「ちょっとこっちに来い!」「お前はチンチャ(中国人)か?」「この国に何をしに来た?」「滞在期間は?」などと質問してきた。

東南アジアなどでは警官が難癖をつけて金をせびることがある。今回もそのパターンかと思い、トラブルになるとまずいのでアルフレッドたちを先に行かせた。

「パスポートでも見るか?」と聞くと「必要ない。今度来るときには女を連れてきて俺に紹介しろ」などと下衆なことを言っていた。顔も下衆だった。

適当に返事をして、心配そうな顔してこっちを見ているアルフレッドの元へ走る。「大丈夫?」と聞いてくるので、「心配ないよ」と答えると安心したようだった。それにしてもあんな奴が警官とは。情けない。

ビーチまでは結局20分くらいで着いた。そんなに遠くはなかった。これならいつでも来れる。

さっそく始めようと思ったら、3人とも靴やサンダルを脱いで裸足になった。ここガラスの破片なども落ちていて、できれば裸足にはなりたくなかったが、彼らの足を靴で踏んでしまってはいけないと考え、僕も脱ぐことにした。

裸足でサッカー。小学生のとき以来だ。はじめはアルフレッド&僕チームとモハメッド&アンドリューチームで対戦。久しぶりで身体はしんどいけど、やっぱサッカーは楽しい。

4人とも息が上がった頃、俺以外の3人はパンツ一丁になって海に飛び込む。「タケシも入りなよ!」と声を掛けられたが、あとでシャワーを使えないことが脳裏をよぎってしまい断った。ここで飛び込めないあたりが、もう僕が大人になってしまった証拠だ。

3人が海から上がってくると、周りに人が集まっているのに気付いた。なんだ?と思っていると、ものすごく自然に僕らのサッカーに混ざり出した。

事態が掴めずモハメッドに「これみんな友達?」と聞くと「何人かは知ってるけど、ほとんどは知らない」と答えた。その知っている何人かも、友達というわけじゃなくて「見たことがある」程度らしい。

ということで4対4でゲームが始まり、終わる頃には12対12くらいになっていた。最後には誰が味方で誰が敵か分からなくなり、収拾がつかなくなってやめた。

みんな疲れた頃、初対面の彼らに「どこの国から来たの?」「何をしにここに来たの?」「家族はどこにいるの?」「いつまでいるの?」などの質問攻めに遭う。

こういうときに、必ず「家族」について訊かれる。その度に、シエラレオネの人たちが家族の繋がりを大切に思っていることを感じる。

ちょっと暗くなってきたので、帰ることにする。帰り道でアルフレッドたちと話していると、土曜日はサッカーのシエラレオネ代表対ナイジェリア代表の試合をシアターまで見に行くことなった。日曜日は教会のあとにまたビーチでサッカーをする約束をした。なぜか小学校時代を思い出した。

家に着くともう晩飯ができていたので、アルフレッドたちに先に水浴びをしてもらい、その間に食べることに。

ロイスがやってきて「クリオの歌教えるから、ギター弾いてよ」と言われた。
ということで夕食後は即席のギター講座兼クリオソング講座となった。

ロイスたちはギターを触るのは初めてらしく、嬉しそうにはしゃいでいた。アルフレッドはごはんを食べながら楽しそうに見ていた。

「ドレミファソラシドを教えて」と言われたので、ロイスにポジションを教える。そのあとはロイスたちにクリオの歌(『Tel am tenki』というタイトルだそうだ)を教わり、適当にコードを付けて歌った。

僕が覚えたてのクリオで歌うので、みんな面白そうに笑っていた。喜んでくれたみたいでよかった。