PEKINDEM

2008.10.03:フリータウン

2008.10.03:フリータウン

10月3日(金)。

朝から水道と電気が止まっている。昨日のうちにカメラの充電を済ませておいて正解だった。ここでは当たり前なんだけど、電気が自由に使えないのは不便だ。

今日の予定は、ゴッドリッチ・キャンパスへ行き、子どもたちと遊びつつ設備の写真を撮り、そのあとその周辺にあるコミュニティを見学させてもらう。

朝9時頃、ロイスと話しながら朝飯を食べているとシャノーさんが迎えに来てくれた。いつものように車に乗り込みさぁ出発。

しかしちょっと走り、街中心部のジャンクションへ入るとシャノーさんが「今日は昨日の雨で道が悪いから、ここに車を停めてバスで行こう」と言い出した。

シエラレオネのバス初体験だ。ジャンクションに白い大きめのワゴン車が停まっている。素通りしそうになったけど、どうやらこれがバスのようだ。

ぎゅうぎゅう詰めになって乗り込むと、係の少年がチケットを配り乗車料を集める。片道LE900(≒50)。驚くことに車内には冷房が効いていた。膝の上に少年に乗られている以外はけっこう快適。

でこぼこ道を飛び跳ねながらバスはゴッドリッチ・キャンパス近くのバス停へ。バス停と言っても何か目印があるわけではない。だいたいこの辺に停まる、とかそんな感じだ。

そこから大きな石がゴロゴロしていて、昨日の雨でグチャグチャになった道を進む。犬のうんこが罠のように仕掛けてあるのは日本もシエラレオネも同じだ。

5~10分でゴッドリッチ・キャンパスに到着。子供らはまだ授業中で校庭は静かだ。ミーティングスペースではシャノーさんと一人の先生が税金の手続きについて話している。暇なので校舎や設備の写真を撮って歩いた。

シャノーさんの用事が済んだので、近くのコミュニティへ見学に向う。途中の川にはまりスニーカーを水浸しにしながら、10分ほどで到着。

このコミュニティはフリータウンの中でも貧しいとされているコミュニティだそうだ。ゴッドリッチ・キャンパスの子どもたちのほとんどはこのコミュニティからやってくる。

シャノーさんは「もし写真が撮りたかったら、一度僕に確認してくれ」と断りを入れた。日本でもそうだけど、シエラレオネでも好き勝手に写真をパシャパシャ撮るのは失礼とされる。とりわけコミュニティ内でコミュニティチーフの了解も得ずに写真を撮ろうなんて失礼この上ないことだそうだ。

そういうことなので僕は、シャノーさんの団体の私有地やコミュニティチーフの了解を得た場合以外は写真撮影は控えることにした。

また、たとえチーフの了解を得ても、コミュニティ内の他の人が嫌がっている雰囲気を感じたら撮影はしない方がいいだろうと思った。

だって僕だったら自分が洗濯したり飯食ったりしてるところを勝手にパシャパシャ撮られたら殴りかかるかもしれない。ということでここでは写真は撮らずにおくことにした。

コミュニティ内をしばらく突き進むと、コミュニティチーフの家があった。チーフと簡単な挨拶を交わし、撮影許可を頂いた。

これで一応はこのコミュニティ内での写真撮影はできるということになった。でもさっきから感じている雰囲気では撮影はあまりしない方がよさそうな気がする。

コミュニティの人たちは挨拶をすると珍しそうに僕を見ながらも挨拶を返してくれる。ちょっと離れたところからはやはり「チンチャ」だの「チャイナ」だの「ヘーロン」だのと聞こえてくる。

「ヘーロンていうのは何?」とシャノーさんに尋ねると、「彼らは君を中国人だと思っている。中国人は普通髪の毛を短く切っているが、君は髪が長いので珍しがっているんだよ」と答えてくれた。

なるほど、「ヘーロン」とはヘアー(髪)ロング(長い)とかそんな感じのようだ。そういえば見たことないかもな、ロン毛の中国人。

その後、もうひとつのコミュニティが近くにあるということなので、そのまま歩いてそこへ向う。ほんの10分ほど歩いたところにそのコミュニティはあった。

チーフの家へ挨拶に伺う。ここのチーフはとても気さくで、シャノーさんともとても仲がよさそうだ。なんでも、最近チーフになったばかりの彼は、シャノーさんの考えに賛同し、自分でも独自に教育に関しての勉強をしているそうだ。シャノーさんは「僕がこういう活動をしていく上で、彼のような人間はとても重要だ」と教えてくれた。

ところで、このコミュニティには、ゴッドリッチ・キャンパスに勤務する教師が一人住んでいる。しかし彼は現在病気療養中で学校には来ていない。

ということで、シャノーさんは僕を彼のところへ連れて行ってくれた。彼の家に着くと、彼は玄関先で涼んでいた。シャノーさんが僕を彼に紹介してくれ、お互い自己紹介を済ませた。

彼の名前はモハメド。病気だからなのか、もともとそういう性格なのか、とても大人しく小声で話す。

自己紹介のときからとても腰が低く、とても人の良さそうな印象を受けた。彼の腰の辺り一帯にかけて、かさぶたのようなものが広がっていた。たぶんこれが療養の原因だろう。病状が気になったがやはり聞くのは憚られた。

モハメッドは「私は学校に戻れるでしょうか?」と心配そうにシャノーさんに尋ね、シャノーさんは「もちろんだよ、心配しないで。待ってるから」みたいなことを言っていた。

シエラレオネの人は、僕を交えないときは普通クリオで会話する。このときもクリオだったが、僕にも理解できた。もしかしたら英語より分かりやすいかもしれない。

なぜならクリオは、一種のブロークンイングリッシュのため、英語と単語が同じ、または似ていることが多く、さらに過去形、現在形、未来形の区別がないからだ。

またシエラレオネの人は母音を強く発音する(ような気がする)ので、日本人の僕からすると、英語よりも聞き取りやすいのだと思う。

モハメッドの家をあとにし、コミュニティを抜けると、シャノーさんが「今からもうひとつ、漁師のコミュニティに行くけど、身の回りに十分注意してくれ」と言い出した。

今までにもいくつかのコミュニティには入ったことがあるが、事前にこういう注意を受けたのは今回が初めてだ。なるほど、そういう感じのところに行くのかな。

モハメッドのコミュニティからずっと続いている坂を下っていくと、そこにはビーチが広がっていた。魚の生臭い臭いが鼻に届く。漁師達が魚の水揚げ作業をしていた。

ここには周辺の漁師がたくさん集まるらしく、毎日とても混雑しているらしい。人々はちょうど二段ベッドのようなものに雨よけのための布を掛けて居住スペースとしてその下の狭い空間に寝転んでいた。シャノーさんはそれを「シェルター」と言っていたので、そこにずっと住んでいるわけではないかもしれない。

シャノーさんは道すがら、何人かの子供に声を掛ける。あとから聞いたら、あの子たちは全員シャノーさんの学校の生徒らしい。今日は学校には来ず、物売りをしていた。

シャノーさんの学校に通う生徒の親の中には、子供に対する教育の大切さをいくら説いてもあまり理解を示してくれない人もいるらしい。

そういう人達の子どもは、このように学校に来くことを許されず物売りをさせられ、次第にまったく学校に来なくなってしまう。

歩きながらシャノーさんは、「ここの子供たちは小さい頃からギャンブルやドラッグに手を染める。そのため大人になっても正しい倫理観が身に付かず、このコミュニティ周辺の治安の悪化に繋がっている。今の時間帯はまだいいが、夜にはさらに不穏な空気が漂う」と教えてくれた。

現に、そこらじゅうに煙を吐き出す子がいるし、さっき見ていたギャンブル台では小さな子供が無謀な賭けをして持ち金のほとんどを巻き上げられていた。

そのあと、「荷物に十分注意して」と注意を受けて市場を通る。漁師のコミュニティに近いだけあって魚が豊富だ。それ以外にも野菜や芋、ジュースにおもちゃなど、様々なものが売っていた。

しかし、ここもやはり怪しい雰囲気が漂っている。なるほど、教育の不行き届きは、こういった治安の悪化にも繋がっているわけか。と、ちょっと賢くなった気分。

教育の浸透は、子供の将来に於ける職業選択の可能性を広げると同時に、国や地域の治安向上にも繋がる、ということのようだ。

帰宅。ロイスが電気が通っていると教えてくれたので、今のうちに電源が心細くなったカメラ、携帯、PCの充電をしておく。

と思ったのだが、ここで問題発生。

携帯を充電しようとプラグに繋いだが、ウンともスンとも言わない。「あれ、電気止まっちゃったかな?」と思ってカメラを繋いでみるといつも通りの反応。

いろいろ試してみた結果、携帯の充電器が断線しているっぽい。今のところははカナダで使っていた携帯(国際電話可)を使うことでなんとかしのげるが、それも今月の15日で解約のため、シエラレオネ滞在中に使えなくなる。

今日まではなくてもさほど困らなかったが、万が一の事態に遭遇したときのために持っておきたい。

どうしたものかと考えていると、ロイスに「ご飯食べちゃいなさい」と叱られて晩飯へ。食べている最中にロイスの姉のアントワネットや近所に住むロイスのおばさんとおじさんが来てゲリラ的にクリオ講座開催。

食べてる最中に「言ってみと、言ってみろ」言われて、もごもごしながら新しい言葉を覚える。

食後、ロイスに「ア・ワン・ワス・リター(あとでシャワー浴びたい)」とクリオで伝えると、その場にいた全員に拍手された。

ちょっと恥ずかしいけど、外国で人と仲良くなるには、その国の言葉を覚えること、少なくとも覚えようとしている姿勢を示すことが大事だと思う。

「1週間弱でこれだけ覚えれるんだから、2ヶ月もいれば立派にクリオを話せるようになるわ」とアントワネットが言ってくれた。ありがたいけど、そこまで甘いものではないだろう。

みんなに褒められる僕を見て、僕のクリオ家庭教師のアルフレッドは嬉しそうにしていた。